隈研吾が語る空間の本質

隈研吾著 『日本の建築』

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隈研吾が語る空間の本質

 言わずもがな隈研吾氏は、現代日本を代表する建築家であり、その独特な空間構成と素材使いで世界中から注目を集めている。本書「日本の建築」は、そんな隈氏が日本の建築文化の本質を探求する一冊である。本書では、日本の伝統的な建築様式から現代建築まで幅広く考察し、素材、空間、光、風景といった要素が織りなす独特な美意識を解き明かしていく。

特に注目すべき点は、隈氏が提唱する「反オブジェクト※」の思想である。これは、自己主張する独立した物体としての建築ではなく、周囲の環境と調和し、人々の生活に寄り添うような建築を目指す考え方だ。具体的な建築作品を例に挙げながら、隈氏自身の建築哲学が詳細に語られる。例えば、京都にある「京町家」は、伝統的な木造建築様式を受け継ぎながら、現代的な生活スタイルにも適した空間を実現している。

また、熊本にある「熊本県立美術館」は、周囲の自然環境と一体化するようなデザインを採用することで、地域に根差した文化施設となっている。これらの作品を通して、隈氏が日本の伝統文化を現代にどのように活かしているのかを理解することがでる。

※反オブジェクト:2009年隈氏の著作のタイトル。その著書「反オブジェクト」は、実作品を例示しながら独自の建築論を語っており、わかりやすく興味深い内容に仕上がっている。本書の主旨は以下の言葉に要約した。

 「世界の中に屹立する建築ではなく、主体と世界をつなぐきっかけとなるような建築をつくりたい」        

 「建築を通じて、人間という主体が世界と接続される/建築とは主体と世界の間に介在する媒介装置」

日本の伝統と現代の融合

本書は、日本の建築史や文化を知りたい人だけでなく、現代建築の新たな可能性を探求したい人にもおすすめの一冊である。隈氏は、日本の伝統的な建築様式を現代の技術や素材と融合させ、新たな表現を生み出すことに成功している。例えば、東京にある「サントリー美術館」は、和紙とガラスを組み合わせた独特なファサードが特徴的である。

また、中国杭州にある「中国美術学院民芸博物館」は、竹を編んで作られた巨大な構造体が印象的な作品である。これらの作品は、日本の伝統的な美意識と現代的なデザインが融合した、新たな建築の可能性を示している。

日本の建築の未来を展望する

隈氏は、日本の建築文化は「弱さ」や「曖昧さ」といった要素を大切にすることで、独特な美意識を生み出してきたと指摘する。そして、現代社会において求められる建築とは、自己主張するのではなく、周囲の環境と調和し、人々の生活に寄り添うような存在であると主張する。「本書は、日本の建築文化に対する新たな視点を提供し、未来に向けて新たな建築の可能性を探求する上で重要な指針となるだろう。とスマートにはまとめられない。全編にわたり、一昔前、一世を風靡したコンクリートを主体とする「安藤忠雄建築」へのアンチテーゼとも読み取れなくもないからだ。

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この記事を書いた人

建築家・デザイナー・学芸員・市場アナリスト・・・爺達からの遺言。現代社会と過去の時空を彷徨い、明日を生きるためのメッセージを送っていきます。

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